サンダーエイジ

韓国のアイドルとか音楽についての自分が後で読み返ししたい記事のふんわり訳と覚書。

【質問箱お返事】ストリーミングされている曲の日韓の違いと韓国でのヒップホップの人気、アイドルと関係性について

【お題箱からのご質問】

はじめまして。

先日、ふとストリーミングサイトの国別人気曲を見てみたところ、日本は邦楽が殆どであるのに対し、韓国では洋楽のヒット曲も一定数ランクインしていました。
時期によっては、結構な数の洋楽が聞かれているみたいです。

また、洋楽人気とは別に、ランクインしたラップ曲の数も気になりました。
韓国ではそれなりに入っていますが、日本ではほぼゼロです。
日本においては、韻を踏む=ダジャレとなること、フレックスより慎ましさが好まれること、深刻な貧困に苦しむ層が少ないことなど、ラップが流行らない理由はある程度予想できるのですが、何故韓国では人気なのでしょうか?
(あくまで一つの理由に過ぎませんが、個人的には、他のジャンルほどメロディーが豊かではなく、同じトラックがループされることの多いラップに関しては、言語を話すときの抑揚の有無が重要なのかなと勝手に思っていたりはします…)

それと、上記の話とも少し関連するのですが、韓国ではヒッポホップ(ラップ)とアイドルグループの関係はどのようにみられているのでしょうか?
一般に男らしさが求められるヒップホップと中性さが求められるアイドル(さらに話を進めるならLGBTQ)との相性があまり良くないというのは、否定し難いところだと思います。
先日のmike deanの騒動でも、BTSをディスったことを称賛するヒップホップファンが日本でも多く、どっちも好きな自分としては悲しい気持ちになりました笑
しかし、韓国では殆どのグループにラップパートが存在しますし、ラップの流行りを取り入れた曲も少なくないです。
このように、アメリカや日本ではあまり受け入れられなさそうな2つの要素の組み合わせが韓国では上手くマッチしていると私は思っているのですが、韓国国内(特にK-POPアイドルファン以外の層)ではどのように受け取られているのでしょうか?

世界の中では比較的文化が近いであろう日本と韓国の音楽に大きな違いを感じたので質問させて頂きました。
長文かつ質問が複数となってしまい申し訳ありません。
音楽知識に乏しいため質問に誤りも多いかと思いますが、可能であれば回答を頂けると幸いです。宜しくお願い致します。
2022年4月12日0:19

https://odaibako.net/detail/request/dc498b22-180a-4b1e-97af-abc47d1bfad7

 

まずご質問者の方が「国別人気」を比較したストリーミングサイトがどこなのか、と言うのはかなり重要なポイントだと思います。

もしApple MusicやSpotifyの事でしたら、見ているチャート自体が「一般的」なものではなく相当偏っているという前提で見たほうが良いでしょう。

と言うのも、韓国ではアメリカでストリーミングが普及する前から自国のストリーミングサイトが定着していたため、国民全体の7割近くが国内サービスであるMelon지니などを使っています。そして韓国で一般的なMelonやGenieのチャートも、日本のストリーミングサイトのチャートと同様にチャートインしてる曲のほとんどは韓国の曲です。

日本国内でのApple MusicやSpotifyの定着割合と韓国での定着率は全く異なっていて、この2つを使っている人たちは韓国では元々がマイナーな層だということです。音源ストリーミングサービスはスマホの会社と紐づけられていることが多く、2021年の韓国でのスマートフォンシェアはSAMSUNGが85%でAppleは12 %でしたし、Spotifyは韓国でローンチしてから数年しか経っていません。まず、この前提を踏まえた上でチャートを見て比較しなくてはいけないと思います。

韓国でこの状況であえてiPhoneApple MusicもしくはSpotifyを使う人たちというのは、クリエイター(カメラのクオリティの良さから2つ持ちしているアイドル含む芸能人も多いと思います)のような「ヒップな人たち」とか、外国人だったり元々が洋楽を含む韓国以外の音楽を好んで聴く層が多いと考えられます。(Spotifyの場合はSpotifyのチャートインを狙うアイドルオタクも入ってくると考えられますが)

そのような元々洋楽好きな層が多く使っているであろう偏りのある音源サービスのチャートですので、そこに入ってくる「洋楽」は決して韓国で「一般的に流行っている」とは限りません。韓国の総合音楽チャートであるGAONチャートを見ると、ここ数年間で年間チャート上位に入ってくるくらい一般的にヒットした「洋楽」は数曲ですし、Fitz & The Tantrums Fitz「Hand Clap」エド・シーラン「Shape Of  You」(プロデュースシリーズの影響)カミラ・カベロ「Havana」アン・マリー「2002」MAROON5「Memories」ジャスティン・ビーバー「Peaches」など、いずれも「ヒップホップの曲」でもありません。The Kid Laloiの「STAY」はラップの曲ですが、これは韓国ではジャスティン・ビーバー人気の影響が大きいと考えていいと思います。前にツイートもしていました。

「Dance Monkey」のようなTikTok経由だったり唯一の例外としてクリスマス時期に毎年入るマライア・キャリーアリアナ・グランデというのありますが、これもヒップホップの曲ではないですね。

 

以上のことから、そもそものご質問者の方の「韓国では洋楽、特にヒップホップ曲が一般的に人気」という認識自体に若干の誤認があると言ってもいいのではないでしょうか。

「韓国で欧米の曲が人気」というより「韓国のチャートには洋楽が入ることもある」という感じですし、「韓国ではヒップホップが人気」は正しいですが、「欧米圏のヒップホップ曲」が人気なのではなく、韓国で人気なのは「韓国のヒップホップ曲」です。そしてこれは欧米圏の音楽というよりはすでに「SHOW ME THE MONEY」や「高等ラッパー」などドメスティックな韓国のTV番組の影響の方が遥かに大きいです。韓国のヒップホップアーティストは当然欧米のヒップホップアーティストの曲を聴いて取り入れていますが、だからこそわざわざ欧米のヒップホップアーティストを聴かなくても国内のヒップホップアーティストを聴けばいいという状況に特に一般的にはなってると思います。

 

アイドルの曲に限らず、若者向けの音楽にヒップホップ的な要素が多い事に関しては、大元を辿れば元祖アイドル的歌手の「ソテジワアイドゥル」の存在と、韓国で「若者による若者のための音楽」が生まれ始めた時期がちょうど世界的にヒップホップが流行し始めた90年代という歴史的社会的なことが大きいのではないかと思いますし、これは日本で言えば60年代の若者文化とロックの関係性にそのまま置き換えられるんじゃないかと思います。また、アイドルに特化して言うなら時期的に嵐の楽曲のサクラップの影響などもなくはないと思いますね。韓国語の子音の数の多さがラップにハマりやすいというのは確かにあると思いますが、ジャンルの定着自体に関しては社会的環境的な要因の方が大きいように感じます。

この辺は過去に何回か回答してますので、こちらもご参照ください。

 

また、韓国における「ヒップホップの大衆化」というのが実際はどのような受容のされ方なのかという問題もあると思います。以前日本のメディアに載った韓国のKid Milliと日本のHIYADAMの対談ではKid Milliのこのような発言もありました。

「日本のほうが自由度が高いように感じます。韓国は芸能人みたいになっちゃったから。何かあれば謝罪しなきゃいけないとか、僕が元々知ってたヒップホップはそんなじゃなかったのに。そんな韓国から見ると、日本のほうがアメリカのヒップホップ精神に近いように見えます。韓国ではラッパーが芸能人になってしまって、それがすごく残念です。」

日韓新鋭ラッパー2人のスペシャル対談 Kid Milli × HIYADAM | 【GINZA】東京発信の最新ファッション&カルチャー情報 | INTERVIEW

いずれにしろ、韓国には韓国独自の大衆音楽文化の歴史があって、それをヒップホップが生まれた場所だからと「洋楽」の側の視点からだけで当てはめてみても、ズレた認識になるのではないかと思います。

 

アイドル音楽におけるヒップホップ要素については、2013〜2015あたりが最も真剣に「ヒップホップ」をアイドルソングに取り入れることが試みられていた時期ではないかと思います。この流れについてや「一般的に(アイドル界隈以外から)どう見られているか」については、少し長いですがこちらの記事を読んでいただくと参考になるのではないかと思います。

【rhythmer訳】(ヒップホップとアイドルの)気まずい同居同楽 - サンダーエイジ

【idology訳】アイドル × hiphop ⑤ [対談]ロボトミー x ハバクク x idology(1) - サンダーエイジ

【idology訳】 アイドル × hiphop ⑥ [対談]ロボトミー x ハバククx igology(2) - サンダーエイジ

【idology訳】アイドル×hiphop ③ 境界地帯 - ヒップホップとアイドルの間で - サンダーエイジ

 

「一般に男らしさが求められるヒップホップと中性さが求められるアイドル(さらに話を進めるならLGBTQ)との相性があまり良くないというのは、否定し難いところだと思います。」とありますが、KPOPアイドルがやろうとしてるのが「ヒップホップ」ならそうだろうと思いますけど、今はあくまでもやってるのは音楽的な技法のひとつとなりつつある「ラップ」なので、「男らしさ」のような部分での「真正性」は今は必要なくなっていると思います。(欧米圏のヒップホップシーンでもこの辺りは変化がありますし)そして韓国では元々特にヒップホップ的な曲をやる事が多い男性アイドルとLGBTQ+の相性が良いわけではないので、そもそも絡めるようなものでもないかと。

この点に関しては女性アイドルのクリエイションの方がずっと進んでいるというか、積極的に関わろうという姿勢が見られますが、韓国の男性アイドルのクリエイションにおいては、「海外の人/ファン」がどう感じているかどうかとは関係なく、アイキャンディ的なものとして表層的に借りてくる事はままあるとしても、むしろ具体性からは距離を置いてると言ってもいいと思います。

 

韓国でのヒップホップ定着についてきかれたEPIKHIGHのTABLOは「もっと率直な話が出来る場をみんなが求めていたからでは」と言っていましたが、ヒップホップにおいての価値というか「イケてるかどうか」が判断される大きな部分を占めるのは、テクニックやトラックのかっこよさ以上に、リリックにリアルがあるか否かという事ではないかと思います。ヒップホップカルチャーとアイドルの相性の悪さというのは、disや男性性云々という以前に、「率直さ」が基本にあるヒップホップと、ある程度整えられた部分を見せる事が大前提で、ある程度の「リアルに見せたフェイク」な部分も楽しませる(それがリアルであるかのように受容することを、ファンの側もある程度理解している)のがアイドルというベースにあるあり方が相反するからではないでしょうか。その「韓国のヒップホップ」に関しても、韓国ではサバイバル番組ですら「フリースタイルバトル」が放送できない(それっぽいものがあっても事前にリハをして歌詞のチェックをしています)という事を考えると、韓国でのヒップホップ文化における「真正性」も、欧米圏でのそれとは異なるものになってきている部分もあるようにも思います。

 

2015年前後はまだアイドルが「ヒップホップしようとしていた」のでその辺の真正性との関係性が試行錯誤されていた感じがありますし、ラッパーとしてソロでアルバムを出しているようなアイドルについては「アイドルらしからぬ」歌詞の内容でバッシングされるような事もありました。逆にヒップホップメディアで取り上げられてきちんとした評価を受けたりけちょんけちょんにされることもありましたが、とりあえず「評価の俎上」自体には乗る機会がありました。「最近はヒップホップジャンルが大衆化してきた影響でヒップホップアーティストが逆にアイドル化してきた部分もあり、以前は韓国でのヒップホップジャンルの入り口としてアイドルのヒップホップ系のパフォーマンスというのが機能していた部分もあったと思うんですが、今は10代20代がヒップホップに触れたい時にアイドルの曲を聴く必要がない(ヒットチャートにあるヒップホップアーティストの曲を聴けばよいので)ため、2015年前後と比べると「ヒップホップの曲」と「アイドルのヒップホップジャンルの曲」の間によりはっきりとした境界ができている(ヒップホップ的なものを求めるリスナーとアイドルの間の距離が離れている)と思います。ですから、一般人から見れば単純に「アイドルがラップしている曲」という感じではないかと思います。

そのグループのラップ担当の人がヒップホップ系の番組やサバイバル番組に出て人気が出たりある程度勝ち進んだりした場合は「アイドルソングのラップ担当というのを超えて「ヒップホップアーティスト」と認識される可能性はあると思いますが、そうでなければどこまでも「ラップ担当」でしょうし、そうなるとむしろヒップホップ系ジャンルでの流行を曲に取り入れることに前述のような「リアル」を求められなくなるので、韓国のアイドルのラップ担当のメンバーのスキルやテクニックが全体的に高いとしても、それはすでに「ヒップホップ」とは切り離されて認識されてるということでもあると思います。

 

このように、2015年あたりが「ヒップホップ系アイドル」の最盛期だったので、この辺のラインより前の時代にデビューしたヒップホップ系のアイドルの中には、一般層やヘッズから「ヒップホップアーティスト」としても認識されている人もいます。ただ、そう「認められる」ためには先述のヒップホップ系の番組やサバイバル番組バトルで名を上げるか、ミックステープではなくヒップホップアーティストとして「商業的なアルバム」をリリースすることが最低条件ではないかと思います。それは、これらの事が「アイドルとしてのファンサ的なリリースに留まらず、ヒップホップアーティストとして批評や批判(dis)を受ける覚悟がある真正性(リアル)のある態度」だとみなされるからではないでしょうか。

2015年以降にデビューしている第3.5〜4世代と呼ばれる若手アイドルのラップ担当メンバーに関しては、それ以前とは違ってロールモデルがラッパーではなくアイドルグループになってきており、むしろ若手のラッパーのロールモデルにすらG-DRAGONやZICOのような「アイドル兼ラッパー」の名前があがるようになってきているそうです。

以前のように「ラッパーになりたいが、環境的に難しいのでアイドルになった」という人はかなり少なくなっていると思いますし、「アイドルをやりたい」という意思を明確に持ってラップをしている人がほとんどではないかと思います。故に少し前のような「アイドルとラッパーの狭間での苦悩」というのが「リアル」な姿として成り立ちにくくなっていますし、ラッパーが今よりも職業として成り立ちづらかった時代はそのような部分がアイドルラッパーならではの真正性と受容されていましたが、今現在そういう事を吐露しても「だったらアイドル辞めてラッパーになれば?」と思われるだけで、もはや「リアルな感情」としては届きにくくなっていると思います。そういう意味で今のアイドルにとって「ラッパーとしてのリアル」を見せるハードルは以前よりも高くなっているように感じます。

 

しかしそうなっていくと、韓国のアイドルグループラップ担当メンバーと日本のアイドルグループのラップ担当のメンバーの間に、個々のテクニック以外で根本的に違う何かがあるというわけではないということになりますね。ジャニーズにも今日日ラップ担当メンバーのいるグループは結構いて、リリックも自分で書いてるケースは多いですし。

ゆえに、2020年代のアイドルとヒップホップの関係性とか「ラップパート担当」については、むしろ日韓のアイドルにおいては近づいてきてると言ってもいいかもしれません。アイドルの曲に関して言えば、韓国でも欧米のトレンドを取り入れたヒップホップ系の曲が特にチャートで強いとか人気が高いということもないですし。

(90年代風のR&B要素強めなゆるいBPMの曲が全体的に見ると強い印象)

アイドルファンの主要層である10・20代の若者層の間ではTV番組の影響が大きくてヒップホップが人気の音楽ジャンルですから、アイドルの楽曲にヒップホップテイストが多いというの単純で必然的な流れもあると思います。

 

最初から「アイドル」という線引きをしてヒップホップの方へは行こうとしなかった日本と、ラッパー志望だったけど結果的にアイドルになった人も多かった時代があった韓国という、音楽ビジネス業界と社会的な受容の歴史の違いというのも影響はありそうですが、現在の時点で大きく違う部分があるとすれば、韓国ではヒップホップ系のトラックメイカーの素養があるメンバーがいて楽曲制作に関わっている事が多かったりとか、楽曲制作にヒップホップ系のアーティストが関わる事が多いというのはあるんじゃないかと思います。

YouTubeで上がってた動画でBOYCOLDやdressなどヒップホップ系のトラックメイカー達が「アイドルの楽曲に参加するとヘッズやラッパーからもセルアウトしたみたいな目線で見られるけど、ヒップホップ系のアーティストに曲を作るよりきちんとお金が貰えるし、韓国の音楽業界ではアイドルがいちばん先端だと思う(ヒップホップ系のアーティストの中にはMVにはお金をかけるけどトラックにはお金をかけたがらないパターンが多すぎる!という趣旨の話)」という話をしていました。

確かに現時点で韓国の音楽ではアイドルがいちばんお金を集められる商業的に成功したジャンルなので、そこに他ジャンルの人気アーティストや実力者が呼ばれて制作に関わりやすい、という流れもあるようです。