サンダーエイジ

韓国のアイドルとか音楽についての自分が後で読み返ししたい記事のふんわり訳と覚書。

2017、複雑化していったKナムドルイメージコンセプトとカウンターとしての「プロデュース101 シーズン2」

2017年の下半期も始まり、ここ数年韓国内で1番大きなファンドムを誇るEXOはこの夏のカムバで100万枚以上を売り上げ、それに迫る防弾少年団の世界的なファンドムはその熱心さと献身ぶりにより彼らをペンドムの力だけで米国ビルボードの授賞式へと送る事に成功した。しかし、そんな堅固で強大に見えるファンドムを誇る彼らのファンの間に少々の不安を走らせるような新たな第3のボーイズグループが近頃現れた。プロデュース101シーズン2を経て結成されたグループ、WANNA ONEだ。

 

今まで強大なファンドムを誇ってきた既存アイドルのファンの心が揺らぐのは、第一に「戦う相手」が同じアイドルオタク同士というわけではなくなったからというのもあるだろう。今まではよく練られ完成された世界観やセンス、見出された特異な才能、あるいは生まれ持った(?)ルックス、想像を超える長く厳しいトレーニングの末に得た歌やダンスのスキル、そして芸術性の高いスタイリングや楽曲。そこに加えてある程度の長さの練習生活や共同生活を経て形成されたメンバー間のケミストリー。そういうものに特化してブラッシュアップされていくのがトップアイドルの証であり、間接的にはトップアイドルのファンたちの誇りやアイデンティティにもなってきたのではないかと思う。しかしそこにまた別の新しい価値観のもとに作られたグループが誕生し、しかも大衆的かつ絶大な人気を得てしまったのだから、今まで自分たちが好きで拠り所としてきた「アイドルの価値観」そのものが揺らいでしまうのではないか?という不安が出るのも当然の事かもしれない。特に、日本のKドル好きにはそもそも日本国内の既存アイドルにはない音楽性や技量的なうまさ、アーティスティックな面などを見出してファンになった人も少なくないのではないかと思うが、WANNA ONEの(音楽性や技量的なレベルはともかく)アイデンティティはむしろ日本国内の既存アイドルの方に近いと言えるからだ。

 

先シーズンの成功が土台にあるとはいえ何故いちTV番組から始まったグループが、今までアイドルに興味がなかった層までも巻き込んでここまで大衆的な人気を得たのだろう。この疑問が少し氷解するヒントを見つけたような気がしたのは、他でもないEXOと防弾少年団のカムバックティーザーと、それに対するファンの反応を見ていた時だった。

 

デビュー当時からEXOはティーザーやMVに多数の謎解きのようなヒントを散りばめ、ファン達はそこからコンセプトに秘められたストーリーやメッセージを読み解くという楽しみを見つけ出してきた。これは方向性は違うものの防弾少年団も同様で、こちらは彼らのコンサートや活動自体がトリロジーや外伝というひとつの繋がったストーリーのようなコンセプトになっていた事に加え、I NEED U以降はまるでファンフィクションのような現実とファンタジーが入り混じっているかのような意味深長なイメージが展開されてきた。いずれも明確な答えのようなものは与えられないが(もしくは最終的にリリースされるアルバムや曲自体にそれほど関連はなかったりするのだが、これは長年の韓国アイドルあるあるでもある)ヒントから裏側のストーリーを各自繋げて妄想を楽しむという、これはある意味新しいオタ活のスタイルのひとつを生み出したと言ってもいいかもしれない。


今年の夏のEXOのティーザーであった「The Ecripce」が出た時、「今までのEXOの活動日は全て過去の日蝕があった日」という謎解き解釈のひとつを見かけた。その時思ったことは「今回も謎解き班すごいな。よくそんなに遡って色々と覚えているな」だった。これは大体いつも思うことなのだが、しかし今回に限ってはこうも思った。
「これは一見さんが入りにくそうな世界だな」

 

コンセプトに色々な仕掛けをする事はむしろ良い事だと思う。ファンも見所が多くて飽きにくいし、謎解き匂わせ系のMVにすると単純にVIEW数が稼げるというのも制作側にとっては利点だろう。しかし、そのアイドルの活動ヒストリー全体を巻き込むような長期的な仕掛けは、必ずしもポジティブなものであるとは限らないと思う。その謎が解けるのはデビュー当時からの、あるいは一定期間見続けてきたファンの特権という事になりかねないからだ。ファンの方を向いたコンセプトや曲作り自体は良い事だと思うが、それが複雑化・内輪化しすぎるとアイドルとファンのみの閉じた関係の中でのみ完結しやすいのではないだろうか。「アイドルは開いた本」という個人的に好きな言葉があるのだが(「アナと雪の女王」の劇中歌みたい)、こうなってしまったアイドルは「開いた本」どころか「袋とじ」のようなもので、ちょっとした立ち読みは許されない。もちろん謎解きをしなくても楽しんで良いのだが、それがないと100%満喫しているような気持ちになりにくいのは惜しい気もするかもしれない。

 

コンセプトだけではなく楽曲やパフォーマンスも同様で、最先端の欧米の流行をそのまま取り入れられるようにはなり評論家や音楽マニアからの評価は上がっていったが、KPOPらしさの肝と言われる「ポン気」(トロットっぽさ)は失われ、一般人がカラオケでみんなで歌えるような大衆的なアイドルソングはゼロではないが減っていったように思う。ダンスもグループの大型化や振付フォーメーションの複雑化によってトップグループになるほど「会社の余興でちょっとやってみた」程度に一般人が気軽に真似する事は難しくなっていったのではないか。それは「ダンスや音楽のプロフェッショナル」であるはずという視点ではプラスポイントであるが。

 

結果的に、読み解きの文法やそこまでする熱意は持たないアイドルオタク以外の「一般人」にとって、2013年以降のトップアイドル達は老若男女みんながダンスを真似してYouTubeにあげていたWonder Girls以降の時代に比べれば、特に一般よりもファンドム人気が先行しがちな男性グループはどこか少し遠い存在になっていったのかもしれないと思う。国内だけでなく今時は世界でも人気があるんだって、へえ、そうなんだ。グループ名は知ってるけど、曲はあまりよくわからないね(あるいはその逆)という程度の。そして2016年、女子アイドルの世界ではキャッチーなメロディとわかりやすい曲構成やポイントダンスを盛り込み、サバイバル番組を経て親しみやすいキャラクターを持ったTWICEの登場とブレイクによって「アイドルの楽しみが大衆に帰ってきたのではないか」というような事を、以前「2016 GAONチャートを振り返る」という記事で書いたことがあった。
2016 GAONチャートを振り返る②[本命の音源チャート編] - サンダーエイジ
それと同じような事が男子アイドルの世界ではプロデュース101シーズン2、あるいはWANNA ONEを通して起こったのではないかと思うのだ。

 

プロデュース101シーズン2という番組では、それぞれ様々なバックグラウンドを持ちながら順位を巡って争い時には共闘し悩み成長してゆく参加者自身、あるいは同じ苦しみを味わっている者同士でしか共有できないであろう「同志感」を共有する少年たちの姿そのものがコンセプトのようなものだったのではないかと思う。そこにややこしいキーワードや隠されたイメージはないし、毎週ただ番組を見ていれば基本的な事が理解できるようになっている。興味を惹かれたメンバーがいればネットで検索すれば、それほど長大なエピソードもまだ出てこない。番組を見始めれば即そこから共に彼らのアイドルヒストリーを見守っていけるという、用意された優しいオタ活の場所だったのではないだろうか。

 

...というような事をWANNA ONEデビュー直後あたりに考えてSMのコンセプト変化うんぬんついての文章を書くより先に書き始めてたんですが、ダラダラとシメを先延ばしているうちにその後のEXOリパケ「Power」や防弾少年団カムバ活動曲「DNA」MVやコンセプトはほぼ謎解き系ではなくなり、やはり両者の匂わせミステリー系コンセプトは今はほぼ終焉に向かいつつあるのかな?と思いました。The Powerの方はまだちょっとあるみたいだけど、それでも超能力コンセプトが少年マンガ的にもっとシンプル化されてた感じ。防弾のLOVE YOURSELF略はティーザーはそこはかとなく新海誠っぽかったですけど、タイトル曲自体はそんなに関連はない感じだったし...と言いつつDNAは若干歌詞にRADWIMPS風味はあったかもしれない(???)

SEVENTEENはAll1シリーズ(?)の途中みたいなのでむしろこれからそっちに行くようですが、いままでの曲に比べると「泣きたくない」のファン以外からの反応がそれほど目立たなかったのはそういう事かもしれないなと。(その後ネチズンの間で言われていた某洋楽曲との類似が、事務所がもめ事を嫌ってまさかの似ていると言われていた曲の使用料を払ってクレジットに作曲者として載せて収束させるという事態になったりしましたが)彼ら自身のヒストリーに重ね合わせていく感じだからか、ちょっと今までよりは少し閉鎖的な雰囲気を感じなくもなく。ティーザー期間も今までより長い気もしますし。その分ファンの人たちの感想は今までよりものめり込み度強めになってるようにも感じます。単純にペンドムの歴史がある程度長くなっていくとそうなる時期があるということかもしれないけど。

 

...でここまでの文章とここからはまた数ヶ月開いちゃったんですが、その後に出たSEVENTEENの活動曲の「拍手」では原点に返るかのようなシンプルなコンセプトに戻っていて、やはり「時代は今、『そのまんま』なのよ!」(「日ポン語ラップの美ー子ちゃん」で美ー子ちゃんがKOHHの章でシャウトしていた台詞)という事なんでしょうか。

 

内容に見合わないものすごく大げさなタイトルをつけてしまった事を反省しつつ、2017が暮れていきそうです。