サンダーエイジ

韓国のアイドルとか音楽についての自分が後で読み返ししたい記事のふんわり訳と覚書。

【お題箱】韓国のアイドルの政治的アクションや曲のメッセージ性について

【お題箱より】

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https://odaibako.net/detail/request/f50e8e80-5773-4d31-a2ef-f4edb793f035

 

「歌詞にメッセージが〜」というのは間違いではないと思いますが、今の時点を見れば数は年々減ってきていますし、やや拡大解釈しすぎの見方のように個人的には感じます。MVにイメージコンセプト的に織り込んだりする事もありますが、実際は曲の内容とあまり関係のないアイキャンディ的な使われ方も多いです。アイドルは大衆の求めるものを曲に込めることが多いので、時代や状況やお国柄によってそうなる事もある、ということです。韓国のアイドルの曲全体を見れば「メッセージ性」とは無関係と言ったほうがいい曲の方が多いですし、日本のアイドルでも欅坂やAKBなどはそういうものを明確に込めている曲もありますし、要するに国がどうこうというよりもコンセプトによりけりという部分が大きいのではないでしょうか。

KPOPに20年以上携わっているライターの方がその辺りの事についてお話されている最近のインタビュー記事もありました。

BTSが社会的メッセージを発信し続けるのはなぜか 7人が継承するK-POPの伝統 - wezzy|ウェジー


また、韓国アイドルを巡るポリティカル・コレクトネスについては過去に似たようなお題箱が来たことがありました。

【質問箱】日韓アイドルのポリコレ的態度と社会の関係性について - サンダーエイジ

 

何故このような「ちょっとした誤解」に近い気もする理解のされ方やコンセンサスが日本を含む海外で特にKPOPに触れ始めたばかりの層に持たれがちなのかという話なのですが、日本含む海外ではそもそも「異文化」でありメインストリームではないサブカルチャーなので、マイノリティや支持者が好みやすい(もちろんユーザーはマイノリティだけではないですが、KPOPの主体である文化や人種自体が韓国以外ではマイノリティという特性はあるので)メッセージや思想的なアクションをファンが求めがちかつ読み取りがちということがある一方、韓国ではアイドルというサブカルではあるものの自国の文化であり大衆に対しては主流のものであるがゆえに「韓国の大衆の求めるもの」に当てはまるもの以外は明確な政治的スタンスや思想性をなるべく排除する事を求められていますし、それゆえにアイドル個人が思想やメッセージを明確に表す事は難しいという事は、割と韓国では言われていると思います。

【中央日報訳】[ヤン・ソンヒ論説委員が行く] KPOPは社会運動の武器になれるのだろうか - サンダーエイジ

 

例えば、直近の話ではタトゥに関する条例の改正を求める政治家がBTSのジョングクを例に出した時は、「政治的な活動に利用するな」という声がファンからかなり起こって発言した政治家が釈明するなどニュースになったくらいでした。まあこれもファンが騒いだだけで、本人や事務所は何も言ってなかったですが。

“당신 정치에 이용 말라”…류호정, ‘정국 타투’ 올렸다가 ‘뭇매’[e글e글]

 

韓国のアイドルが曲に込めがちなメッセージ(「思想」と言えるものは、今現在はほぼないと思います。聴く方が勝手に読み取るのは自由ですが)としては、90年代からの鉄板のテーマで「社会や大人への反抗」というのがあって、元祖KPOPグループとも言われるソテジワアイドゥルの「教室イデア」などは代表曲だと思います。これは日本含む世界中のティーンコンテンツに共通するテーマだとは思いますが、韓国の特に厳しい年功序列というか、「年上が偉い」という価値観がかなりはっきりしている(言語的にも敬語だけでなく年上と年下に使う言語が違ったりする)特性上、当時の社会における「未成年」という立場の弱さへの不満が反映されていたのでしょう。ソテジは自分たちで製作するセルフプロデュースのグループでしたが、このスタイルやメッセージをコンセプトとして「アイドル」の曲に取り入れたのはSMが元祖と言われていて、90年代後半にデビューし人気を二分したH.O.T「戦士の末裔(暴力時代)」やSECHSKIES「学校別曲」もそういうテーマでした。そして、デビュー当時の防弾は90年代末に流行したこれらのテーマをギャングスタラップスタイルと掛け合わせ、更に当時流行し始めていた「ヒップホップ系アイドル」として仕上げた新旧トレンドミクスチャーという感じだったと思います。実際、デビューした時のコンセプトは「10代を大人たちの偏見から守る防弾チョッキになる」的なアレだったと記憶してますし、初期はここに挙げた3曲をさまざまな場でカバーしていました。後にソテジの「Come Back Home」のリメイクをやったりもしましたが、これは当時社会問題になっていた家出少年少女たちへのメッセージソングです。また、デビューしてすぐにLAでWarrenGやCoolioと一緒に「ヒップホップ武者修行」するリアリティ番組アメリカンハッスルライフ」がMnetで放送されたりと、KPOP業界全体にそういうヒップホップ的なトレンドがあった時期でもありました。

余談ですが、BTSはデビューしてすぐアメリカでライブやファンミーティングをしており、なんらかの形で毎年渡米して公演を行ってきています。このような海外ロケ単独プログラムがあったことからもわかるように、いわゆる「弱小事務所」というわけではありませんでした。2AMというJYPの2PMと兄弟グループで当時トップクラスで人気のあった先輩グループもいましたし、新人賞も海外含めいくつもとっていた中堅クラスの事務所と言えると思います。

 

何故2010年代に、当時の韓国では野暮ったいイメージとされていた90年代的なメッセージ(「サウンドの割に歌詞の内容が90年代末から進化していない」という指摘はかなりありました)を表現させたのかというと、ちょうど2012〜2013当時はBIGBANGの成功を受けて、今ではラッパーとしても成功しているZICOのいるBlock.bなどメンバーが曲作りに関わるヒップホップ系のアイドルグループ(Block.bは元々チョPDというラッパーが計画したコリアンエミネムプロジェクトというアイドルデビューオーディション経由で生まれたグループです)がデビューし始めた時期でした。当時は今ほどヒップホップシーンがメジャー化していなかったこともあり、本来はラッパーになりたかったであろう若者がメジャーな音楽シーンで食べていこうとする場合の第一選択肢が「アイドル」という事が多かった時代でもあったと思います。「防弾少年団」もコアとなるメンバーはラッパーオーディションで集められ、その中にはアイドルとしてはデビューに至らなかったけど後にラッパーとしてデビューした人もいます。

練習生になる前はアンダーグラウンドのヒップホップシーンにいたZICOやバン・ヨングクのように、アイドルとヒップホップを両立したりアイドルを経てヒップホップシーンへ戻っていった例もありますが、元々は地元でヒップホップクルーをやっていたりしたものの、デビュー以降はそのままアイドルに安着していったという例の方が多かったでしょう。今現在の韓国ヒップホップシーンではラッパーの方が「芸能人化」「アイドル化」してきた部分もあり、ゴリゴリのヒップホップをやりたい人が無理にアイドルを目指さなくても良い環境にはなってきたので、「ラッパー」と「アイドル」の境界は前より明確になってきたと思います。

 

しかし時には不躾だったり下品になったりもする「率直さ」が基本にあるヒップホップと、ある程度のイメージ管理が必須であるアイドルというのは本来相反するものなので、そこを両立させるために必要だった「真正性」というものをティーンアイドルに求めた結果が、90年代末のソテジ的感性だったのだと思います。実際デビュー当時はメンバーも10代の学生が多く、大手事務所というわけではない10代のアイドルが掲げるコンセプトとしては相応しかったと思います。

(うっかり「ギャングスタラップ」と言ってしまった事でヒップホップ界隈からは叩かれたりもしていましたが、確かに「リアルなギャングスタラップ」にはなりえないのに標榜してしまったのは突っ込まれ要因としては仕方ないと言えるかと)

 

グループの誕生コンセプト自体がそういう感じだったため、SKOOL〜やDARK&WILDくらいまではアルバム収録曲にもそういうテーマを込めたものが多かったと思います。しかし、防弾が韓国でブレイクした花様年華シリーズは、逆にそれまでの「メッセージ性」を一旦かなり薄めてより内省的な日記帳みたいなコンセプトに変化した時代です。しかし初期の遺産が未だに効いていて、特にリアルタイムで花様年華期以降の変わり方を体験していない後追いの人たちの中にはそういう途中で消えた初期のイメージを未だに抱いているケースもあるのではないかと思いますし、更にアメリカでファンダムが拡大した時に初期のメッセージソングのイメージがファンの間で強調されてきたために、グループ/事務所の方も社会的イシューとの関係性を特に海外向けのメディアでは意識して振る舞うようになってきたという歴史があると記憶してます。最近のアルバムに関しては、実際はほぼ全曲が内省曲かファンソングのような歌詞の内容になってきてますので、ファンの立場からしたら「(ファンへの)メッセージ」は感じるかもしれませんが、初期の方がマスへのメッセージ性は明確にあったと思います。社会的メッセージのある曲としては多分「NOT TODAY」が最後で、それが歌詞の内容的に多少なりとバッシングを受けたからなのか、それ以降のLYS以降は控えめなのかもしれません。

 

過去にBTSの事務所が明確にメッセージを出したのはBLMの時くらいだと思いますが、あれに関しても最初からの流れを見る限り、自主的にやったというよりは欧米圏のファンからの突き上げ(Kドルや事務所のインスタグラムのアカウントになんらかのアクションをしろ・財布を開け等のコメントがつきまくったり、ブラックミュージックから恩恵を受けているのに何もしないのか等の圧・ファンダムがファンの名前でお金を集めて募金など)があった「様子見の時期」の後に、「事務所として」公示を出したという流れだったと思います。ファンがファンダムの名前で寄付をして、それに呼応するようにBTSも寄付を...という言う事がニュースでは主に取り上げられていたと思いますが、実際には主に欧米ファンからのノーアクションに対する苛立ちや突き上げが散々あったという泥臭い背景があったことは、リアルタイムで見ていた人は感じていたのではないかと思います。

(もちろん、「アメリカのセレブ」とは異なる立場にある「外国のアイドル」にそのような強要ともとれる要求をするファンダムに疑問を呈していたアメリカのファンもいましたが)

BLMの件については、確か最初にステートメントを出したのはやはりアメリカでも活動しているMONSTA Xの事務所であるSTARSHIPじゃなかったかと思います。

(ちなみにYGは大手事務所の中で唯一この問題に関するステートメントを出しませんでしたが、以前オーランドでゲイのナイトクラブでの乱射事件があった時はG-DragonやCLがインスタでレインボーフラッグの絵文字を投稿したりと個人がやったことはあるので、色々真逆っぽいです)

 

基本的に、BTSの場合はメンバーがコンカで個人投稿をあまりしなくなった2018年くらいからは、メンバー個人が広報などの仕事を通して意外で公の場で政治的な発言をすることはほとんどなくなったとように感じます。2016年頃からBTSの過去発言や歌詞に女性嫌悪的な表現がある事に関してファンの間から公論化を求める動きのようなものが起きて、専用のアカウントやグループ降り運動が起こった時期がありました。やがて新聞報道までされる事態になったため、事務所が謝罪を公的に発表する事態になりましたが、それまでミソジニー的な表現への指摘に対して公式に事務所が釈明と謝罪を行う例はそれほど多くなかったので、これ自体はとても良い事だったと思います。しかし2014年のホルモン戦争やサンナムジャ、2016の公論化、2017のNOT TODAYと定期的にミソジニー的な表現で問題提起されてきただけに、以降は韓国内ではかなりファンの側も敏感になっていますし(少なくとも当時を知るアイドルファンやフェミニズムに敏感な層の間ではそういうイメージが多少なりとついてしまったので)メンバー個人がダイレクトに社会的イシューについて発言するような場面もなくなってきたという韓国内での流れが背景としてあるのではないかと思います。

 

これはBTSに限った事ではないですが、SNS時代に入って生配信などもされるようになってから本当に些細な事で芸能人バッシングが起こりやすくなっており、KPOPアイドル全般が特定のドメスティックな分野(国内でのいじめや社会的な事件事故、ナショナリズム的な事柄等)以外ははっきりとした発言をしづらくなったため、その曖昧な表現ゆえに特に言語のニュアンスや背景を汲み取りづらい韓国語ネイティブではないファンにとっては、逆にいくらでも期待やファンタジーのようなものを込めた拡大解釈ができるようになっている、という部分もあるのではないかと思います。例えば、人種的だったりLGBTQ+含むジェンダー関連については韓国内では非常にデリケートな部分もあるトピックなため、海外でのジェンダーレスなイメージとは裏腹に具体的な単語を出して語る・語ったアイドルは実際は非常に少ないという実感です。政治的なトピックの絡まない災害や事故の方が直接言及するケースは多いと思います。

 

前述のようにむしろ今のKPOPやアイドル自身は自分の自由意思で政治的な発言を公の場ですること自体が難しくなっていますので、立場上ファンからの求めに応じてや、事務所がフィルタリングした上で公示をする以外、SNSで自分から何か「政治的なこと」を発信したりっていうことは珍しいと思いますし(ゼロではないでしょうが)、曲の内容に関しても、「アイドル」についてはそういうメッセージを含んでいるという事は今は逆に多くはないと思います。この辺は韓国語でアイドルソングの歌詞について等検索してみてもらえれば、ネイティブの人たちが今のKPOPの歌詞についてどう感じているのかというのがわかるのでは。むしろもっと狭い国内のみをターゲットにしていた時代の方がメッセージや思想と呼べるべきものはあったかもしれません。

 

政治的アクションについてですが、元々芸能界に限らず韓国は寄付やボランティア活動などが活発な印象です。過去に歴史的な出来事やまだ財閥があって貧富の差が大きい部分もあること、ボランティアが大学などの内申や入試の点数に直接関係してくるなこともあるなど色々な要因があると思いますが、この流れもあって芸能人やファンが寄付やボランティア活動をすることは昔から特に珍しくないことだと思います。何かあれば、特に国内の同じ国民のためにはすぐアクションを起こすことに慣れている感じはしますので、そういう習慣や意識が芸能人やそのファンダムの行動に現れやすい部分はあると思います。また、そうした行動が芸能人の意思とは関係なく公にされたり報道されやすいというのもあるでしょう。

 

以上の様々な事情や事例から、個人的には大衆やファンから特別に求められたりという特殊な事情がない限りはBTS含むKPOPアイドルが政治的な活動や発言をする事はあんまりない印象です。ファンの方がやる気満々だと思いますね。推しドルの印象をよくできる(かもしれない)し実際にも何か世の中を良くしたり人の役に立てるかもしれないので、ドルオタ的にはwin-winと思っているのかもしれません。