サンダーエイジ

韓国のアイドルとか音楽についての自分が後で読み返ししたい記事のふんわり訳と覚書。

【質問箱】元iKON・B.I.の作る曲について

【質問箱への投稿より】

こんにちは。BIGBANGの弟分という印象だけがあり、ふとiKONの曲を聴きました。(iKONのサバイバルは2つとも去年見ました)
そこから作詞作曲を全て行なっているハンビンの事を知り、彼が昔、未発表曲(デモ曲)をこっそりSoundCloudにアップしてた事を知ってよく聴いています(今は彼のアカウントからは全て消されましたが...)どれも切なくて投げやりで悲しくて優しい曲でした。脱退してしまってから3曲ほどアップされました。iKONは元気いっぱいという印象が強いのですが、悲しい曲がとても多いですよね。ハンビンの作詞作曲について、印象、音楽の方向性など純粋に泡沫のような有識者の意見を聞いてみたくて質問させて頂きました。iKON関連の質問回答はできるだけ目を通したつもりですが、以前記事で、ハンビンはサバイバルで負けた相手のデビュー曲を手掛けたがなかなか残酷...というのがとても印象に残っております(しかも相手はデビュー曲なのに暗い、そして大ヒット)
漠然とした質問で申し訳ありませんが、よろしくお願いします。

 

https://odaibako.net/detail/request/4d4a3bbb4de74cb490fc2ebb1c2b36b7

 

なんか長くなったのでこちらで失礼します。

 

確かにiKONというとアッパーだったりswagなヒップホップだったり元気でお祭り的なイメージが強いですが、B.I.が作るiKONの曲の本質はむしろ、CLIMAXとかEMPTYみたいな方にあるんじゃないかと思っています。

 

soundcloudにある曲もですが、実際に韓国内でもヒットした楽曲もmy type とかLOVE SCENARIOとか、切なくてメロウな楽曲に決してポジティブではないけどリアリティのある繊細な心情が織り込まれた楽曲が多いですしね。もちろんライブでファンと盛り上がる曲とか、カッコつけたswagでキメる曲も必要ですし、彼の中にもある要素なんだろうと思いますが、韓国語ネイティブの「大衆」から幅広い支持を受けたのはそういうさみしくて明るいとは言えない曲が多いです。

 

韓国のアイドルは自作の場合、どうしても語れる事とか表現に限界があったり型にはまった表現にならざるを得ない事もあると思いますし、特にいわゆる「自作曲」では「(芸能人として)他人に見せるためのリアルっぽく見える感情」みたいに感じられる歌詞もあったりしますけど、個人的な感想としては、確かにB.I.が作る曲には作り手のリアルな感情が見えるというか「作家性」みたいなものを感じます。凝ったレトリックや難しい隠喩はなくても(韓国の詩人の引用などもありますが)より多くの人が共感しやすい言葉とか感情がスッと入ってくるような表現で描かれていて、いい意味で普遍性があると思います。LOVE SCENARIOの「僕の残りの人生の中で時々脳裏をよぎる記憶/その中に君がいるなら それで十分さ」とかHUG ME(個人的に好きです)の友達に片思いしてる事を「そばにいるときは友達 俺一人の時は恋人(韓国語では片思いの相手も恋人というので)」と表現したりとか、曲との相乗効果でわかりやすいけど独特の感性があって、でも一般人的な感覚は失ってないというか「普通の若者」感があっていい歌詞だなと思います。


ご質問に出てきた「EMPTY」ですが、これは当時チームBとして負けたB.I.が「楽しかったステージを降りたあとの虚しい気持ち」を表現した曲だと後で知りました。デビュー当時に聴いた時はビハインドを知らなかったのでこんな渋いライバルチームの作った曲をデビュー曲にするのは珍しいというか、どういう意図なんだろう?残酷なのでは?と思いましたが、全体的にフラットなこの曲の良さを最大限に引き出す事が出来るのは全員の声のトーンが違って個性が際立つWINNERの方だろうとも思うので、この曲をあえてWINNERにやらせた事は正解だと思います。

この「ステージから降りたあとの虚しさ」という話は以前訳したアイドルメンタルヘルスについての記事(http://nenuphar.hatenablog.com/entry/2017/04/20/185256)にも出てきました。

C君は「ステージから降りた瞬間から、大きな空虚さが訪れる」と言っていました。 その話を聞いて、アイドルたちはステージの上に限っては少なくとも「安全」だと感じているようだと思いました。 熱烈な歓呼と強く照りつける照明を受けている間だけは、現実で向かい合うあらゆる苦悩を忘れられるでしょうから。 自分をさいなむすべての憂鬱と強迫的な環境から、この職業を選択した自分に対する恨みから、唯一自由な瞬間なのではないでしょうか。 実際にマイケル・ジャクソンが最高の人気を謳歌していたころ、あるインタビューで「幸せですか」という質問が出ると、彼は「一度も幸せだと思ったことがない」と答えたそうです。 そしてこのように話したそうです。
「パフォーマンスをしている間は比較的解放感を感じる」

 

「ステージから降りた瞬間に感じる虚しさ」という感情って、アイドルにしてみたらまずファンには見せないし見せられない「本当の感情」のひとつなのかもしれないと思います。大なり小なり、アイドルだけではなくステージに立つ仕事の人たちの多くが持つ感情かもしれません。そういう裏側のリアルな感情を勝者の側のWINNERが歌う事で、サバイバルの時の記憶がデビュー曲に刻まれると同時にまだデビューが決まってなかった(ひょっとしたら裏では次のサバイバルは決まってたのかもしれませんが)チームBとチームAが共感出来る感情を共有出来て繋がっている曲のようにも感じます。

そういう「真にリアルな感情」を曲にダイレクトに込めながらも、一見すると恋愛の歌のようにも聴こえるように仕上げているのがすごいと思ったし、一度その舞台裏を知った後で聴く曲と歌詞は、特にあのサバイバルを見た人やショウビズにかかわる人であれば相当胸に迫るのではないかと思います。私はポップな体裁を立派に持っていながらも実際自分の話をリアルに織り込んで、結果的に自分の話と他の人の話を共有出来るような楽曲にアーティスト性を感じる方なので、この曲の裏側を知った時は本当にアーティスト気質のある人なんだなと感じました。

(恋愛に関しては母胎ソロという事でほぼ想像で書いてますとの事でしたが...)

 

自作アイドルは多くいるものの、本当の意味で曲を通して寂しさとかみっともなさみたいな、泥臭くもリアルな自分の感情や気持ちを表現して、ファン以外の市井のリスナーとも共有できた数多くはない貴重なアイドルメンバーでありクリエイターだったんじゃないかと思います。ご質問者の方の「切なくて投げやりで悲しくて優しい曲」という表現が本当にその通りだと思いました。