サンダーエイジ

韓国のアイドルとか音楽についての自分が後で読み返ししたい記事のふんわり訳と覚書。

【質問箱】J.Y.Parkのソロ曲について

【質問箱への投稿より】

JYパークが最近日本でも人気ですが、彼のソロ曲はWho's your mamaといいFeverといい女性を性的消費しているものが多いように感じます。MAMA2019でママムにWho's your mamaを一緒に踊らせていたのもかなり不快でした。エンパワメントを体現したような存在であるママムのメンバーにあの曲を踊らせるのはかなり侮辱的だし正直嫌がらせとすら思いました。
もうすぐカムバするようですが不安しかありません。
日本はそういう女性差別的な面ではまだまだ遅れていると思うのでそこまで騒ぎにならないのも理解できるのですが、フェミニズムが根付いていてちょっとした表現でもアウトになる韓国で彼の女性観がそれほど議論になっていないのが不思議なんですがどうしてなんでしょうか…

2020年8月8日0:41

https://odaibako.net/detail/request/20ee42a4-82bc-46b3-a822-be28597e50a0

 

J.Y.Parkの曲に女性嫌悪的とされる表現が多々見られる事は確かで過去に問題にされた事もありましたが、ご質問者の方の解釈の仕方もご質問の文章からはあまりに表層的なもののように感じました。


「エンパワメントを体現したような存在であるママムのメンバーにあの曲を踊らせるのはかなり侮辱的」とご質問者の方は感じたようですが、逆にいえばそのコラボを受け入れてパフォーマンスしたのは彼女たち自身ですよね。それとも、年長の先輩の男性アーティストだから嫌々ながら受け入れたという構図があると考えているんでしょうか。個人的には、J.Y.Parkの歌詞を女性嫌悪的だと糾弾しながらも、そのような女性観を変わらず表現し続けているアーティストとコラボレーションをしたMAMAMOOの方に異議を唱えないというのが不思議です。自ら選んでパフォーマンスしたにしろ、自らの意志ではなくパフォーマンスしたにしろ、ご質問に列挙された事柄からだけからでは「エンパワメントを体現」としていると感じているご質問者の方が脳内で描いているであろう「MAMAMOO像」との矛盾を感じましたし、フェミニズム的な視点から語るにしても「韓国の女性アイドル」や「J.Y.Parkの作風」に対してあまりに表層的な理解で発言されているように感じました。


J.Y.Park氏が歌手として韓国で人気と注目集めた理由としては、性表現に厳しい韓国で「性」というものをテーマにしてメジャーなエンタメ表現として取り上げてきた先駆者だからでしょうし、故にJYPの社長(今は社長じゃないですが)としてではなく、パフォーマーとしては韓国では性的なイメージが強いと思います。男性がセクシーさを前面に出す事は「女性に性的な目線で消費される存在としての己を認識して振る舞う」という事でもあり、それ自体が韓国ではエピックでした。

セクシャルな表現が多い事に加えてシスヘテロ的規範から女性を一方的に対象化しているという批判は勿論過去にもありましたが、「Who’s Your Mama?」はMVやパフォーマンスを合わせて見るとそのように「女性を性的な目で見てしまい、それをメインの物差しとしてしまう」という男性である自分自身をむしろ卑下して戯画化している内容で、タイトルにもなっている歌詞の「こんなになっちゃうなんてあなたのお母さんは誰なの?(親の顔が見てみたい)」というのは、女性に向けているようで実はJ.Y.Park自身に向けられた言葉という二重も仕掛けがある曲だと思います。だから歌詞だけを見て「女性を性的に消費している」と糾弾する事はむしろJ.Y.Parkの望むところで、本質からはズレた批判になっているのではないでしょうか。そこで指摘されるべきはむしろ自らを戯画化する事で許されようとする態度そのものであって、己を客観視してコミカルな存在にする事で女性への無分別な性的目線を「男の悲しい性」というようなものにすり替えてしまっている事なのではないかと思います。実際、この「世間からのいじりやバッシング・嘲笑なども含めて己のキャラをとことん戯画化する」というのは現在のJ.Y.Parkの芸風の柱のひとつではないかと思いますし、「Fever」の歌詞の過剰なセクシャルさも実際のパフォーマンスと合わさると、セクシーというよりもどうしてもコミカルなものとして感じられてしまうと同時に、アメリカのボードビルをイメージしたコンセプトと楽曲のクオリティが混ざり合った「セクゴリ感」とでも言うべきJ.Y.Parkにしか出せないえぐみというか、個性としかいいようがない仕上がりになってるんだろうと思いますが。


しかし、この「己の戯画化」という自己卑下のスタイルは、彼自身が実際は「年長者の男性で成功者でもある」という視点から見ると、特に年長者の男性の「精神的・社会的権力」が強い韓国においては女性を性的消費している視点をパフォーマンスのネタにしているという事実そのものの解決にも言い訳にもならないでしょう。韓国でもJ.Y.Parkの曲を女性嫌悪的な曲とみなしたり彼自身の女性観を非難する声も勿論ありますが(過去に話題になったことは何回かあります)それでも彼の芸能事務所社長としてのイメージや「年長者の男性なのに」コミカルで自己卑下するような表現をするというスタンスゆえに許されやすく問題になりにくいという部分もあるのではないかと思います。実際に「Who‘s〜」は非難もありながらも大きな注目を受けて曲としてはヒットしました。ご質問者の方が「フェミニズムが根付いていてちょっとした表現でもアウトになる韓国で彼の女性観がそれほど議論になっていないのが不思議なんですがどうしてなんでしょうか…」と感じているということは、そのような「Who's Your〜」がウケて受け入れられるリアルな韓国社会の反応や風潮は見えておらず、ご自分がお持ちのイメージが必ずしもそのままそれだけの事実というわけではないということではないでしょうか。

(この曲は江南殺人事件の前にリリースされたのでその後の変化はあるでしょうけど、MAMAでのパフォーマンス自体も論難になる事はなかったと思います)


個人的な感想としては、セクシャルな表現が多いゆえに女性嫌悪的な部分も目に見えてわかりやすい「年長者の男性」の先輩歌手と女性歌手がコラボするということは、女性がセクシーな表現をする事そのものへの反発もまだ多くある韓国においては、それ自体が性的な表現に対する女性の自主性をあらわすというアティテュードでもあるんだと思います。そしてJ.Y.Parkのパフォーマンスにおける根本的な芸風や女性観がそれほど変わる感じがない以上、J.Y.Park本人の意図に関わらず彼の歌に女性歌手がイーブンな立場でコラボする事そのものは、同じ歌詞でも話者の立場が変われば全く真逆の解釈がされるケースもある事を考えればポジティブな事なのではないかと思いました。本人たちの意志でやるのならですけど。だから直系の師弟的というか後輩とも言えるソンミとのコラボは、ソンミがどのように対峙するのか?という点でどのような事になるのか楽しみという部分が大きいです。