サンダーエイジ

韓国のアイドルとか音楽についての自分が後で読み返ししたい記事のふんわり訳と覚書。

【ize訳】故チェ・ジンリ②残された人々の役割

【ize訳】故チェ・ジンリ②残された人々の役割

2019.10.22

http://m.ize.co.kr/view.html?no=2019102121457218485

 

誰かは今さら何の意味があるのか、また他の誰かは他人の死を利用するなと言う。 彼女がなぜそのような選択をしたのか、本当にそうすべきだったのかも判断できない。 ただ、いつ誰が去ってもおかしくない社会を記録したい。 喪失の時代に残った人々にできること、しなければならないことについて。

 

今も暴力を振るうあなた、人間ですか。

ソルリは先月、SNSでライブ放送を行っている最中に見知らぬ男性に脅威を感じ、放送を中止したことがあった。知人と会っていたプライベートの場で自らファンだと主張する男性から何度も声をかけられ、ソルリは繰り返し拒否の意向を伝えた。ソルリは「怖かった。私はもう外に出られない」と話し、隣にいた知人も「今年初めて(家の)外で会った」と説明した。しかし、男性は再び「一言だけ喋ってほしい」と近づいてきた。ソルリは怯えてうつむいて体をすくめ、知人は「さっきから何度も断っているでしょう」と再度断ってからライブ放送を終了した。拒否の意思を明確にしたにもかかわらず、引き続き接近してきた男性と恐怖に震えるソルリの姿は、彼女が日常で経験してきた不便を垣間見せた。しかし、その事実が記事を通じて知られた後、矢はとんでもないところに戻ってきた。ポータルサイトのコメントの大多数は「過敏な反応だ」「知人はなぜ笑っているんだ」など、ソルリまたはソルリの知人を非難する内容だった。ソルリが経験した状況そのものを「芸能人なら当然甘受しなければならない生活の不便」や「自ら招いた問題」と主張する書き込みも少なくなかった。論点をすり替えてむしろ被害者を非難する二次的加害、三次的加害が起こったのだ。

 

「人々は変わらなかったんです」20代の女性Aはソルリの死去後も継続された悪質なコメントを置いて「何が問題なのか、問題意識すらないようだ」と話した。そして、「悪質な書き込みが直接的な死亡原因でないとしても、故人を性的に侮辱する書き込みを簡単に目にすることができる今のこの社会が正常ではない」と強調した。ソルリだけでなく、その周辺の人々に向けた「サイバーブリング(cyber bullying=ネットいじめ)」も続いている。クリスタル、ビクトリアなどf(x)で一緒に活動していたメンバーをはじめ、関連芸能人のSNSに悪質な書き込みが殺到する。SNSに哀悼の書き込みを掲載しない、哀悼の書き込みを掲載した、ソルリと親しいと知られている、ソルリに言った言葉が気に入らなかったなど、理由はさまざまだ。哀悼のためではなく、暴力を振るう名分のために哀悼を利用するのではないかと思うような姿だ。20代の男性Bは「ソルリについたコミュニティの一部掲示物は男性の自分から見ても窮屈に感じるほど扇情的だったが、死亡後にようやく削除された」「反省どころか『誰がソルリを死なせたのか』を他人のせいにしようとする多くの姿を見て幻滅した」と伝えた。「悪質な書き込み」で苦しんでいたソルリを口実に、再び「悪質な書き込み」を再生産する人間たちは、いったいどうすればいいのだろうか。


人間の尊厳に対する悩み

ソルリはJTBC2"悪質な書き込みの夜"に出演した当時、自分に向けられた侮辱と非難について言及したことがある。彼女は女性グループのf(x)として活動していた青少年期に、ソルリとエレファント(象)の合成語である「ソルファント」と呼ばれるなど、容姿の指摘を受けたり性的嫌がらせやデマに苦しんだ。これは芸能人のなかでも特に女性が経験する問題であり、彼女らが苦痛を訴えるたびに「解決が急がれる」と議論される社会の弊害だ。「スタイル」「露出」などソルリという名前の関連検索語も「誰が私を見るのも嫌だった」と言った彼女がどのような方向の「関心」を受けてきたのかを見せてくれる。ブラジャーを着用しない権利、「視線レイプ」から自由になる権利を主張していた彼女の所信は、「論争」や「奇行」と片付けられたものだった。これについてソルリは、「称賛を含むすべてのルックス評価はしてはならない」と釘を刺し、「認識が変わらなければならない」と力説した。「私を見てると興味深くないですか?もっと興味深い人達が増えてほしい」というソルリの言葉のように、彼女は自分に対する関心を影響力に変えようとした。悪質なコメントについて直接反論し、世相の問題提起のために声を上げており、シンジ、スンヒ、Ha:tfeltなどゲスト出演した女性芸能人と連帯した。

 

ソルリが世を去った後数日間のポータルサイトのリアルタイム人気検索語1位は、「ソルリ動向報告書」だった。彼女の死亡後、管轄消防署が消防災難本部に報告するために作成した動向報告書、管轄交番が警察署及び警察庁に報告するために作成した状況報告書がすべて流出したものである。機関の報告用であり、消防隊員と警察が出動した当時の状況が詳細に描写されているために外部には公開しないのが原則だが、内部の職員達はこれを破り、文書は瞬時にSNSやインターネットコミュニティを通じて流布された。ソルリは過去、病院へ行った時に職員がチャートを流出させて生まれたデマを例に挙げ、「プライバシーが守られなかった経験が多かった」と語ったことがある。しかし、彼女は死後も再び「望まない」興味の的になってしまった。ネット上のコミュニティでは、「解剖検査係がうらやましい」といった故人に向けた性的侮辱が後を絶たず、YouTubeには「怨霊と対話した」というシャーマンからチョ・グクの長官辞任の原因と関連付ける強引な主張まで、ソルリの死を掲げて「クリック」を誘導するコンテンツが氾濫した。ソルリの尊厳は今、この瞬間にも絶えず侵害されている。一人の生と死を娯楽だけにするこの社会で、人間としての尊厳性はどこにあるのか。

 

記者の役割

ソルリの死亡後、マスコミは過去の発言から露出写真、遺体が運ばれる現場と遺族が非公開を頼んだ遺体安置所まで関連記事を掲載し、最低限の報道倫理も守らない行動を見せた。記者に一次的な責任があるが、記者個人「だけ」の問題とは考えにくい。「キレギ(訳注:記者+ゴミ=スレギの造語。所謂マスゴミ)」が活動する背景には、ポータルサイトの記事掲載システム、収益だけを追うマスコミがある。記事には広告が貼られ、広告は露出頻度が高いほど収益を出しやすい。また、メディアにとってポータルサイトはマスコミ社独自のホームページを訪問しないネチズン流入させる機会であり、他の多くのマスコミ各社と競争する空間でもある。似たような内容の他の記事より上段に上がるために、ポータルメインに引っかかるために、マスコミ各社はより早くより多く刺激的な見出しの記事を抜き出している。この過程で、取材なしに以前の記事をそのまま「コピペ」する記事が殺到する。ここに何の取材もなく、最低限の事実確認すらせず「脳内妄想」だけで記事を書く一部の水準に達していない記者、そんな記事もアクセス数が高く推奨するデスクが加われば、読者に幻滅を与える昨今のメディア環境が完成する。

 

「熱愛説の記事が出てもクリックしないでほしい。そうする事で、デスクがそのようなスクープを掘り起こそうと急き立てなくなるから」と、あるインターネット新聞社の記者Cは言う。記者は自分でどんな事案を扱うかを決めて動くが、上の指示に従い取材アイテムを決めて記事を作成したりもする。Cは「ゴミの音を聴くのに等しいので、自己恥辱感がある」としながらも、「熱心に取材した記事が質の低いアビュージング(abusing=いじめ)記事より注目されなければ、デスクはまた『ゴミのような』記事を書くように指示し、悪循環が繰り返される」と語った。また、別の記者Dも「質の低い記事には無関心が答え」とし、「需要が消えてこそ供給はなくなるだろう」と語った。記者自身も知らないうちに「キレギ」になっている時もある。記者が書いた記事は編集局長、編集長など編集権限を持つ「デスク」の編集(デスキング)を経て世に出るが、この過程で記事の文脈自体が完全に覆されたり、刺激的なタイトルに変わることも多い。デスクが自分の名前では書きづらい記事をヒラの記者の名前で出稿する場合も少なくない。「国民の知る権利」を「知るべきこと」と「知らなくていいこと」に分けるとするなら、ポータルサイトとマスコミの奇異な構造は前者、芸能人の違法ではない私生活は後者だろう。しかし今のマスコミがこのように悩んでいるのかどうかは、非常に疑わしい。

 

全ての心をいたわる

「嬉しい時に喜び、悲しい時に泣いて、お腹がすいた時には力が出なくて辛く能率が落ちるという、自然なことが自然なままに自然に受け入れられるようになるといいですね。アーティストの方々は人々を慰める仕事をしている方だからこそプロ意識もあるし、でも良き人としてまず自分の面倒をみて、そんなそぶりを見せないようにする事でむしろもっと病んで痛がっているようなことがなかったら...本気でなかったら、本当になかったらいいなと思います」

IUは昨年「2018度ゴールドディスク」の授賞式でデジタル音源部門大賞を受賞し、このように述べた。芸能人は職業の特性上精神の健康が脆弱になりがちだが、プライバシーを保護してもらえないため、病院や相談センターなど関連機関に助けを求めることは難しい。中央自殺予防センターのペク・ジョンウセンター長兼慶煕大精神健康医学科教授は、「芸術文化分野の従事者の精神疾患の発病率は他の分野より高いと知られているが、彼らは大衆の反応を見極めなければならない深刻な感情労働者でもある」とし、「文化コンテンツが発展するほど、先進的にメンタル健康を汲み取ることができる環境が与えられる必要がある」と説明した。


現在、さまざまな企画会社が大学病院や専門家と連携し、所属芸能人のメンタルヘルスを気にかけている。いくつかの企画会社の場合、アーティスト管理チームと心理カウンセラー、所属芸能人を観察し、カウンセリングするまた別の専門家などと引き合わせて芸能人の心理的な問題の解決に努めたりもする。しかし、大半の企画会社は関連福祉は不備なのが現状だ。公正取引委員会の「大衆文化芸術人標準専属契約書」は、「乙(芸能人)の人格教育及びメンタルヘルス支援」条項を通じて企画会社が芸能人の身体的・精神的準備状況を考慮するようにという内容を含んでいるが、これはあくまでも法的義務ではない勧告事項だ。制度的改善が急がれるが、直近では周辺の支援を積極的に活用することも重要だ。韓国コンテンツ振興院は2011年から大衆文化芸術支援センターを通じて、青少年の芸能人、練習生たちのための心理相談を提供している。企画会社または個人が直接ホームページを通じて申請すれば、心理相談士が訪問して1:1の相談を実施する方式だ。2019年には83人が1人当たり平均1.9回(10月現在)相談を受けた。性倫理、ストレス管理などの素養教育プログラムもある。大衆文化芸術支援センターの関係者はこれについて、「心理相談の場合個人の申請も受け付けているが、実質的なケースは少ない。あまり知られていないようだ」と伝えた。

 


メンタルヘルスのケアは芸能人だけでなく、彼らを大事にし応援する皆にも必要だ。20代の女性Eはソルリの死亡消息に接した当時を「最初は信じなくて、その次は音が出すのが嫌で、タオルに顔を埋めてわあわあと泣いた」と回想した。20代の女性Fも「私がこんな風に生きていてもいいのかと思ってしまい、食事が喉を通らなかった」と話した。EとFはどちらもソルリの知人やファンというわけではなく、ただソルリを見て時には心の中でエールを送っていた大衆だった。Eは、「ソルリの痛みを和らげることができなかったことが申し訳なく、後悔し、ク・ハラのSNSに応援のコメントを掲載した」と話した。彼女は「大丈夫です、一生懸命生きる」と話す映像を見て、彼女インスタに応援のコメントを書き込んだ。「ちっぽけな私の言葉が届くかどうかは分からないが、こうでもしたかった」と説明した。20代の女性Gは「いざ大きな過ちを犯した男性に対してはは『無視する』という名目で論外にするのに、女性だけに『完全無欠』という物差しを突きつけたのではないかと振り返るようになった」と打ち明けた。ペク・ジョンウセンター長は、「故人の行動に共感した方々、彼女を尊重していた方々が経験する喪失感は、極めて正常なこと」としながらも、「すでにストレス要因が多く蓄積され、かろうじて耐えていた人々にとっては非常に絶望的なことなので、周囲から『こんなことでそうなるのか』と思われれば大きな傷になるだろう」と要請した。悲劇の繰り返しに歯止めをかけるためには、メンタルヘルスに対する認識改善とともに政策的レベルでの福祉が必要だ。ベク・ジョンウセンター長は、これに対して「英国やオーストラリアには"ヘッドスペース"として地下鉄駅やショッピングモールなどに万満25歳以下の青少年なら誰でも無料で利用できる精神健康福祉センターがある」「10代と20代の死亡原因の1位がメンタルヘルス(自殺)だが、未だに私たちの社会には偏見と不利益への懸念など、助けを求めることができないようにする障壁がたくさんある」とした。また、「最後の瞬間ではなく、美しく情熱的な人生全体を記憶する過程が必要だ。こうした心を一つにして議論し、これ以上悲劇が起きないようにする社会的な方法を探さなければならない」と力説した。大事なことは、「私」を含む周辺、ひいてはみんなの心を顧みることだ。今この文を読んでいる、あなたの心も。

 

文 イム・ヒョンギョン


복붙=「コピーした後ペースト(복사후붙여넣기)」